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三 抗弁
1 公正使用(フェア・ユース)
我が国の著作権法は、「引用」に関する三二条一項を除き、「フェア・ユース」に関連する一般的条項を持たないが、我が国においてもアメリカ合衆国著作権法一〇七条が定めるものと同様の「フェア・ユース」の法理が適用されるべきである。
そして、右条項において、著作物の使用が公正使用となるか否かを判定する場合には、
1 使用の目的及び性格(使用が商業性を有するか否か、又は非営利の教育を目的とするか否かの別を含む。)
2 使用される著作物の性質
3 使用される著作物全体と対比した使用部分の量及び実質
4 使用される著作物の潜在的市場又は価格に対する使用の影響
の各要素を考慮すべきであるとされるが、以下のとおり、被告による被告書籍の出版は本件記事の公正使用であって、仮に各本件記事の著作権が各原告に帰属しているとしても、その著作権を侵害するものではない。
(一)使用の目的及び性格
被告が、被告書籍中に本件記事を使用した目的は、「雑誌の新陳代謝」という近年の社会的現象を報道・批評し、右現象に関する資料を収集・保存することにあり、被告書籍の基本的性格は、報道、批評、学術を目的とする資料集である。
もっとも、アメリカ著作権判例上、原作品をその本来の目的のために使用すべく複製する場合にはフェア・ユースとはならないとされているが、被告は、本件記事をその本来の目的のために使用したものではなく、また、実用的な「休廃刊告知等の文例集」として本件記事を本来の目的に即して収録したものでもないから、本件記事の本来の目的と被告書籍の目的とは全く異質である。
なお、被告書籍が定価一〇〇〇円(別途消費税三〇円)で市販される商品であることは事実であるが、合衆国著作権法が「商業性」を否定的例示として挙げているのは、他人の著作物を商業的に利用することは、著作権者に排他的に帰属する独占権の不公正な利用となるものと推定されるからであって、被告の行為が原告らの商業的利益を何ら侵害するものでないことは、後記(四)のとおりである。
(二)使用される著作物の性質
アメリカ著作権判例上、フェア・ユースの抗弁は、フィクションの作品より事実に関する作品についてより多く適用されている。本件記事は、基本的には後者の中の「事実の伝達にすぎない雑報」ないし「時事の報道」であり、本件記事の中には著作物に該当しないものも含まれているが、著作物性を有するものの大半も、新聞の社説あるいは雑誌の巻頭言と同質のものであり、著作権法三九条一項によって、「他の新聞若しくは雑誌」に自由に転載することができる著作物である。被告書籍は、「他の新聞若しくは雑誌」ではないが、少なくともフェア・ユースの法理の適用の上では、「書籍」と「新聞・雑誌」を区別すべき合理的な理由はない。
さらに、本件記事を掲載した最終号を見逃した読者は、その雑誌が消えた事情どころか終刊したという事実そのものを知らぬままになってしまうという現実があり、ある作品が絶版になり、通常の経路によって求めることが不可能となった場合には、複製利用する側がフェア・ユースを主張しうる余地は大となる。
(三)原著作物全体と対比した使用部分の量及び実質
アメリカ著作権判例上、一般に著作物全体の複製利用はフェア・ユースを構成しないとされているが、本件を考察する上での「著作物全体」とは、一冊の雑誌全体を指すものである。
他方、被告は、原告らが発行した雑誌の最終号の全部を被告書籍中に複製したのではなく、各雑誌の最終ページに掲載された休廃刊の告知等のみを使用しているにすぎず、しかも、各雑誌の実質的部分は掲載された各記事であって、社告や編集後記は何ら実質的な部分ではなく、量的にみても全体の一〇〇分の一にも満たないのであるから、被告が、休廃刊の告知等の全文を被告書籍中に収録したことは、フェア・ユースの成立を何ら妨げるものではない。
(四)潜在的市場又は価格に対する使用の影響
被告書籍の発行は、原告らの潜在的市場や原告らの商品の価値に一切の影響を及ぼすものではない。
原告らは、原告らの雑誌を休廃刊させて自らその商品的価値を消滅させており、また、本件記事は、それを雑誌全体から切り離して商品として利用することが全くあり得ないものであるから、その将来の使用に関する潜在的市場について論じること自体は無意味である。
前記(一)のとおり、本来の目的とは全く異なった報道、批評、学術の目的で本件記事を使用する被告の行為は、原告らに何らの財産的損害を発生させるものではない。
(五)右に述べた諸般の事情を総合考慮すれば、被告が被告書籍において本件記事を使用したことは、フェア・ユースとして正当である。
東京地判平成7・12・18知的裁集27-4-787(ラストメッセージin最終号事件)
被告Yは、休刊又は廃刊になった各雑誌の最終号に掲載される記事(たとえば「読者の皆様へ:長年のご愛読ありがとうございました」など)を年ごとにまとめて印刷、出版した書籍を発行・販売していたところ、Xらが発行又は出版していた雑誌の記事も含まれていたため、XらがYに対して著作権侵害を理由に差止めおよび損害賠償を求めた事案。
本件では、Y側の抗弁としてフェアユースの法理が提出されていたので紹介。なお、東京地裁は「実定法の根拠のない」被告側の主張は採用できないとして、フェアユースに基づく抗弁については退けている(ただし他の主張は認められたため、主文自体は一部容認、一部棄却)。
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